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無意識(ヒ・占)

事件の一週間前の事。
この2人は似てるんですかね、色々と。




6月の半ば。久しぶりに良く晴れた日だった。
今日の理科の授業は、円すい状の筒型にした銀紙を使って、太陽光を集めて焼き芋を作ろうという実験だった。
もちろん、あの点野先生が、こんな楽しい授業を思いついたわけじゃない。クラスの女の子達がテレビで見たのか、この方法を知り点野先生にこの実験をしようと冗談半分で話したところ、困った先生は「次の授業で晴れたらな」と約束してしまった。6月はずっと雨の予報だったから、大丈夫だと思ってたのだろう。
そして見事空は快晴となったのだった。


「ふう・・・」

僕は、良く陽の当たる場所を探してはしゃぐクラスメイト達から離れ、中庭の隅に腰を下ろしていた。さっきまで、トイレで姫原といつもの行為をしていた。休み時間は短いから、前だけで済んだけれど・・・

「(まだ体が熱いや・・・姫原はまた授業サボってるのかな)」

2年生に上がった時にはもう姫原とよく話していたためか、それとも持ち前の性格のせいか・・・特に仲の良いクラスメイトもいない僕は、こういう自由な実験は苦手だった。いつもどおり、番号順のグループでいいのに・・・でも、あまり動き回る気にもなれないからいいや。焼き芋だって、すごく好きなわけじゃ、ないし。

「あ」

ふと目線を右にそらすと、僕みたいにみんなから離れたところでぼーっとしている点野先生がいた。点野先生は普段からぼーっとしているけど、さすがに今みたいに、口をあけて空を見上げて呆けているのは見たことは無い。・・・本当に、先生って何を考えてるのか、わからないな・・・

「(・・・あれ?)」

上の空かと思った視線は、どこか別の、何かを確実に捕らえてるように見えた。

「(・・・気のせい・・・かな?)」

少し先生が笑った気がした。それは少し不気味で、いつもの点野先生とは違った気がした。
なんだか気になってしまって、僕は立ち上がり、先生に近付いた。

「点野・・・先生?」
「え?あっ、沼田か。」
「どうしたんですか?ぼうっとして。」
「・・いや、少しー・・頭が痛くてね。空を見てたんだ。」

「心配してくれてありがとう」と笑顔を返す先生の眉間には少し皺がよっていて、僕も「いいえ」と笑顔で返した。多分、先生と同じような表情だろう。・・・でも僕は、こんな風にしか笑えない。

「(・・・先生も、同じ・・なのかな?)」
「沼田?」
「いえ、なんでも、ないです。」

僕は何を考えてるんだろう。先生はいつも優しく笑ってるじゃないか。・・だから生徒達にも舐められてるとこがあるんだろうけど。

「ところで沼田はどうしたんだい?これも一応、授業なんだからね。」
「えっ!あのっ、僕はー・・僕も、頭が痛くて」
「そうだったのか。大丈夫か?」
「はい。もう大分楽になってきました。」

今度は逆に心配されてしまった。

その後、先生と少し会話していると、なかなか上手く光が集まらない子が先生を呼んでいたので、点野先生は「また酷くなったら、保健室行っていいからな」と言って走っていってしまった。

「(点野先生は、本当に・・空を見てたのかな・・・?)」

空みたいに遠くておおきいものじゃない。もっと、近い何かを、一点に見つめていた気がするんだけど。やっぱり僕の・・気のせいだったのかな?


「ーッ」
「点野センセ?どおしたんですか?」
「せんせー?」
「いや、なんでもないんだよ。
 ただ、ちょっと、頭痛がするんだ。
 本当に大丈夫だから。」



影は、確実に点野の目を隠してゆく。

事件の、丁度一週間前の事だった。

2006.07.15 | Comments(0) | SS

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